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福岡地方裁判所 昭和43年(行ウ)19号 判決

北九州市小倉区清水町一丁目四〇〇番地の五

原告

オメガ 食品株式会社

右代表者代表取締役

永田洋生

北九州市小倉区大字三萩野字内の堀一〇四八番地の三

被告

小倉税務署長高田輝人

福岡市中央区城内二番六号

被告

福岡国税局長松本健幹

右被告両名指定代理人

大神哲成

山本秀雄

小沢義彦

脇山一郎

江崎福信

井口哲五郎

伊東次男

右当事者間の法人税青色申告書提出承認取消処分取消等請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、原告の請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、請求の趣旨

1. 被告小倉税務署長が原告に対し昭和四一年八月三一日付でなした昭和三六年三月一日から昭和三七年二月二八日までの事業年度以降の青色申告書提出承認を取り消す旨の処分は、これを取り消す。

2. 被告福岡国税局長が原告に対し昭和四三年一月九日付でなした第1.項記載の処分に対する審査請求を棄却する旨の裁決は、これを取り消す。

3. 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決

二、請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

主文と同旨の判決

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は、乳製品および各種飲料水の製造販売を業とする会社である。

2. 被告小倉税務署長(以下「被告署長」という。)は原告に対し、昭和四一年八月三一日付で昭和三六年三月一日から昭和三七年二月二八日までの事業年度(以下「昭和三六事業年度」という。)以降の青色申告書提出の承認を取り消す旨の処分(以下「本件取消処分」という。)をした。

3. そこで、原告は被告署長に対し、昭和四一年一〇月一日付で異議の申立をしたが、同年一二月二四日付で棄却され、さらに被告福岡国税局長(以下「被告局長」という。)に対し、昭和四二年一月一六日付で審査請求をしたところ、被告局長は、昭和四三年一月九日付で右審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決処分」という。)をなし、同月一七日原告に通知した。

4. しかし、本件取消処分ならびに本件裁決処分には次のような違法がある。

(一)  本件取消処分について

被告署長は、原告が材料費を架空に計上し、代金の決済を仮装して三菱銀行戸畑支店ほか数行に別口の定期預金をなしたことが、法人税法第一二七条第一項第三号に該当するとして本件取消処分をしたが、原告にはかかる事実がない。

(二)  本件裁決処分について

被告局長は、本件裁決処分をなすに当たり、本件取消処分の理由についての判断をなんらなさず、本件取消処分の理由と異なる理由により本件裁決処分をなした。

すなわち、被告局長は、原告に売上計上もれ利益があるとの想定のもとに、書類・帳薄の隠ぺい仮装記載を推定し、真実性が疑われるとして本件取消処分を維持している。しかし、被告署長は本件取消処分をなすに当り、原告に売上計上もれの事実が全くないので、取消処分の理由として採用せず、材料費の架空計上のみを理由として本件取消処分をなしたものであって、被告局長が原告の売上計上もれを認定し、これを原処分維持の理由としたことは明らかに違法である。

よって、請求趣旨記載の判決を求める。

二、請求原因に対する認否(被告ら)

1. 第1項の事実は認める。

2. 第2項の事実は認める。

3. 第3項の事実は認める。

4. 第4項(一)、(二)の本件処分の違法性は争う。

三、被告らの主張

1. 本件取消処分の適法性について

(一)  仕入関係について

(1) 河村商店からの仕入金一五五万円について

原告は、備付けの帳薄に河村商店から昭和三六年六月から同年一二月までの間に、脱脂粉乳合計金一五五万円を仕入れたように記帳しているが、河村商店は架空名義であり、仕入の事実は認められない。

さらに、河村商店への帳薄上の支払金額一五五万円について調査したところ、そのうち金五〇万円については、当時の原告代表取締役である山下政満の定期預金に「仕入代金立替金より入金」の名目で五〇万円繰り入れられているが、山下政満が原告の仕入金額を立替えた事実はなく、これは河村商店名義の仕入代金支払を仮装して、山下政満の定期預金を発生させたものと認められる。

なお、残額の一〇五万円についても、原告の仕入代金を決済したと認められる資料もないのであって、以上の点から河村商店からの仕入は架空のものと認められる。

(2) 小倉薬品株式会社(以下「小倉薬品」という。)からの仕入金一一八万八〇〇〇円について

小倉薬品からの脱脂粉乳仕入金一一八万八〇〇円については、売買契約は昭和三五年一一月三〇日になされ、現品は昭和三六年二月上旬原告に自家用車で搬入され、代金決済も同月中に終了している。

よって、小倉薬品からの仕入は前事業年度分であって、昭和三六事業年度分の取引ではない。

(二)  簿外預金について

(1) 本係争事業年度(五事業年度)を通じての原告の預金名義人を山下政満、同アヤ子そのほかとする簿外預金の発生状況は次のとおりである。

〈省略〉

右のとおり、本係争事業年度中における原告の金一〇二二万八八六七円(D-A)に及ぶ簿外預金の増加額は、本来原告の取引による利益であるから、これを原告の決算より除外するのは、原告の所得を隠ぺいしたものといわざるを得ない。

(2) 本件預金の取引金融機関は六行、預金者名義延一七名を数えることよりして、通常の貯蓄預金ではなく、事業活動より生じた営業預金と断ぜざるを得ない。

また、その預金者のほとんどが架空人名義であり、大分銀行小倉支店には無記名定期預金も設定していた。

本件薄外預金が全て個人に帰属するものであれば、多くの金融機関に多数の架空人名義の預金口座を設ける必要は全くない。

(3) 山下アヤ子が昭和三五年四月から昭和三七年四月までの間、乳製品等の販売業を営んだとする原告の後記主張は、次の点からしても真実とは思えない。

原告は代表取締役山下政満の個人営業(乳製品等の販売)が発展的に法人成りを遂げ、単なる販売業からより利潤の多い製造販売業へと脱皮したのであるから、法人とは別に妻個人に同種の営業(しかも、利潤の低い他社の製品の販売)をさせることはありえない。

ちなみに、原告が主張する昭和三六事業年度における所得金額は、一一七万四四七七円、またアヤ子の夫であり、原告の代表取締役であった山下政満の所得は原告からの報酬金六〇万円と光和産業株式会社よりの報酬金四万円の合計金六四万円にすぎない。

(4) さらに本件簿外預金には次のような特徴がみられる。

イ 原告の設立(昭和三五年三月二三日)後間もない同年四月一一日に口座が開設されていること

ロ ほとんど毎日のように現金による小口の入金があること

ハ 入金額が夏季に急増していること

ニ 払出回数は預入回数に比して少なく、かつまとまった金額(一〇万とか二〇万円とか)が払出されており、払出されたのちは大部分が、再び他の架空人名義の預金になっていること

ホ 仕入等営業のために払出された形跡が認められないこと

これらの諸点からすれば、簿外預金は原告において日々の売上金等の中から相当額を除外し、これを蓄積したものであると解するのが相当である。

(5) 以上のとおり、本件預金が原告に帰属することが明らかであるのに、簿外の別口預金を設けて利益を操作することが、法人税法第一二七条第一項第三号の取消事由にあたることは多言を要しないから、被告署長の本件取消処分は適法である。

2. 本件裁決処分の適法性について

本件取消処分の理由の基因となるものは、架空仕入および簿外預金による所得の脱漏であり、これは所得を仮装、隠ぺいしたものというべきである。

法人税法第一二七条第一項第三号は、青色申告の取消理由として「帳簿書類に取引の全部または一部を隠ぺいし、または仮装して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」と規定しており、売上除外にしろ、架空仕入にしろ、いずれも本条項に該当することは明らかであり、取消しの効果になんらの影響を与えるものではない。

四、原告の主張

1. 本件取消処分について

(一)  仕入関係について

(1) 河村商店からの仕入金一五五万円について

イ 河村商店(実質は小倉薬品外一人)からの仕入金一五五万円については、当時の原告代表取締役山下政満が一応個人名義で小倉薬品から金一三八万八〇〇〇円、小島富太郎から金一六万二〇〇〇円合計金一五五万円を営業の閑散期である冬季に仕入れた上営業が繁多となった六月以降において逐次原告に譲渡し、その都度原告が仕入記帳をなしたものであって、小倉薬品の販売記帳と原告の仕入記帳との間に食違いがあるのはそのためであり、被告らの主張するような架空仕入のためではない。

ロ 原告は統制品であった脱脂粉乳を統制外で入手する必要があったため(小倉薬品に迷惑を及ぼさしめまいとの配慮から)、やむを得ず仕入先として「河村商店」なる架空名義を使用したが、事実は小倉薬品から一三八万八〇〇〇円、小倉富太郎の仲介により金一六万二〇〇〇円合計金一五五万円を仕入れており実質的な不正計算はない。

ハ 小倉薬品も統制商品である当該売上については、他の一般統制外商品とは別口座扱として「オメガ食品株式会社」(原告)宛に売上記帳しており、この別口座扱の商品名、数量、金額、すなわち小倉薬品の売上記帳と、原告が「河村商店」名義で仕入計上しているもの、すなわち原告の仕入記帳とは、実質的内容において完全に一致しており、したがって原告の仕入記帳は、架空計上でないことは明瞭である。

ニ 当時の原告代表取締役である山下政満の定期預金口座に「仕入代金立替金より入金」の名目で金五〇万円が繰り入れられているのは、前述のとおり前記金一五五万円を一応山下政満個人名義で仕入れて個人名義で決済をした上、その後原告に譲渡し、その譲渡代金を個人の定期預金に繰り入れたものであって、被告らの主張するような架空仕入による簿外利益ではない。

前記仕入代金は、右のとおりの実情により仕入先に対しては、個人名義により前事業年度中に支払済みであり、また原告から山下政満個人に対しては前記金五〇万円の外は、逐次支払済みである。

(2) 小倉薬品からの仕入金一一八万八〇〇〇円について前記のとおり小倉薬品に対する実際の支払額合計は金一三八万八〇〇〇円であり、被告らの主張するような架空仕入ではない。

(二)  簿外預金について

(1) 原告の銀行預金には薄外預金は全く無く、被告らが会社の簿外預金と認定したものは、事実は原告の前代表取締役山下政満および同人の妻山下アヤ子の個人預金であって、原告の所得とは全く関係がない。

(2) すなわち、

イ 原告は、昭和三五年三月の設立にかかる会社であるが、原告の前代表取締役山下政満および同人の妻山下アヤ子は、昭和三三年以来共同で食品小売業その他の商行為を営んでいたが、原告が設立され、山下政満がその代表取締役に就任以後は、妻山下アヤ子の単独営業とし、昭和三七年四月営業廃止に至るまで、右営業を継続していた。

ロ しかして、右営業継続の期間中である昭和三四年一月から昭和三七年三月までの間において、右両人らが、山下政満、山下アヤ子および石川文子(山下アヤ子の仮装名義)名義で三菱銀行戸畑支店に預け入れた普通預金は合計金八九九万六七七八円である。

そして、右期間中における各月別の預金額のうち、毎年六月から九月までの四か月間における預金額が一年間の預金総額の六〇パーセントを前後しているが、その理由は、右のとおり、山下政満および山下アヤ子の営んでいた個人営業の性質上、夏季(六月~九月)においては、売上が急増し、これに伴って必然的に預金預入れ高も急増したからであり、被告ら主張のごとく、原告の売上隠ぺいに基づく簿外預金ではない。

第三、証拠

一、原告

1.(一) 甲第一、第二号証、第三号証の一、二、第四ないし第八号証

(二) 証人山下政満、同川野平八郎、同小島富太郎

2. 乙第一、第三号証、第六号証の一ないし二三、第八号証の一、二、三、第九号証の一ないし七、第一二号証の一、二の成立は認める。その余の乙号各証の成立は知らない。

二、被告ら

1.(一) 乙第一ないし第五号証、第六号証の一ないし二三、第七号証、第八号証の一、二、三、第九号証の一ないし七、第一〇号証の一ないし二〇、第一一号証の一ないし一四、第一二号証の一、二、第一三号証の一、二、三

(二) 証人内田利光、同川道富士雄

2. 甲第四ないし第八号証の成立は知らない。その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一、原告が乳製品および各種飲料水の製造販売を業とする会社であること、被告署長が原告に対し、昭和四一年八月三一日付で昭和三六事業年度以降の青色申告書提出の承認を取り消す旨の処分(本件取消処分)をしたこと、そこで、原告が被告署長に対し、昭和四一年一〇月一日付で異議の申立をしたが、同年一二月二四日付で棄却され、さらに被告局長に対し、昭和四二年一月一六日付で審査請求をしたところ、被告局長が、昭和四三年一月九日付で右審査請求を棄却する旨の裁決(本件裁決処分)をなし、同月一七日原告に通知したことは当事者間に争いがない。

二、本件取消処分についての判断

成立に争いのない甲第一号証に明らかなとおり、本件取消処分の理由である、原告会社に法人税法第一二七条第一項第三号に該当する事実があるか否かについて判断する。

1. 仕入関係について

弁論の全趣旨により成立を認める甲第八号証および乙第七号証ならびに証人内田利光および同山下政満の各証言を総合すると、原告会社の帳簿には、原告会社が、昭和三六年六月一六日から同年一二月三〇日までの間に、一二回にわたり合計金一五五万九三〇〇円の脱脂粉乳を河村商店から仕入れ、そのうち一五五万円については同年六月一六日から昭和三七年一月八日までの間に、九回にわたり小切手により決済がなされた旨記載されていることが認められ、右河村商店が架空名義であることは原告の自認するところである。

ところで、原告は、統制品であった脱脂粉乳を統制外で入手する必要があったため、やむを得ず仕入先として河村商店なる架空名義を使用したが、事実は小倉薬品から金一三八万八〇〇〇円、小島富太郎の仲介により金一六万二〇〇〇円、合計金一五五万円を仕入れたものであり、しかも、右仕入金一五五万円については、当時の原告会社代表取締役山下政満が一応個人名義で仕入れた上、六月以降において逐次原告会社に譲渡したものである旨主張する。

しかしながら、弁論の全趣旨により成立を認める甲第七号証、成立に争いのない乙第一・第三号証および証人川道富士雄の証言により成立を認める乙第四号証ならびに証人内田利光、同川道富士雄および同山下政満の各証言(ただし、証人山下政満の証言については後記信用しない部分を除く。)を総合すると、小倉薬品は原告との間で、昭和三五年一一月三〇日、脱脂粉乳四トン(二〇キロ包装二〇〇袋)を代金一一八万八〇〇〇円で売り渡す契約をし、昭和三六年二月上旬原告会社に納品した上、同月二八日山下政満から現金一一八万八〇〇〇円を受け取ったが、その際すでに昭和三五年一二月中に原告会社の専務取締役である中村正二が右取引のために振出していた約束手形二通を原告会社に返却したこと、右納品当時、右脱脂粉乳は配給許可(食品使用許可)になっており、原告においてもそのことを知っていたこと、原告会社は、昭和三五年当時、小倉薬品から脱脂粉乳を仕入れていること(甲七号証の仕入帳に記載されている。)が認められ、右認定に反する証人山下政満の証言の一部および同川野平八郎の証言はいずれも信用しない。

右事実によれば、少なくとも仕入金一一八万八〇〇〇円については昭和三五年三月一日から昭和三六年二月二八日までの事業年度に原告会社に納品され同月下旬にその代金は決済されており、しかも、河村商店なる架空名義を使用する必要性もなかったことが認められる。

また、小島富太郎の仲介による仕入金一六万二〇〇〇円については、証人小島富太郎の証言およびこれにより成立を認める甲第五号証中に原告主張に副う供述記載があるが、証人小島富太郎の証言は仕入先が明らかでなくあいまいであり、また甲第五号証も本件訴訟提起後に作成されたものであっていずれも措信しがたい。

そうすると、右にみたとおり、原告会社の帳簿書類は真実の取引を記載せず、代金決済について当該年度の取引を帳簿上翌年に繰り越して記帳したのであるから、つまりは、帳簿書類に取引の一部を隠ぺいまたは仮装して記載したことに帰すると解すべきである。

2. 簿外預金について

(一)  成立に争いのない乙第九号証の一ないし七、証人内田利光の証言およびこれにより成立を認める乙第五号証、第一〇号証の一ないし二〇、第一一号証の一ないし一四を総合すると、本件係争事業年度を通じての簿外預金は普通預金だけをとりあげても、被告主張のとおり合計金二〇二三万五七八〇円に達すること、その預金名義人は一六口に分けられるが、そのうち実在する預金者は原告会社の代表取締役であった山下政満と同人の妻山下アヤ子、長男哲生だけであり、これらを除いては架空人またはこれに類する者であること、また、預金先も三菱銀行戸畑支店ほか六行に分散されていること、以上の事実を認めることができる。

(二)  つぎに、昭和三四年一月から昭和三七年三月までの期間中における前記山下夫妻名義により三菱銀行戸畑支店に預入れた預金総額は金八九九万六七七八円であること、そして、右期間中における各月別の預金額のうち毎年六月から九月までの預金額が他の月よりも多額で一年分の六〇パーセントを前後すること、以上については、原告の自認するところである。

(三)  前掲乙第一〇号証の一ないし二〇および証人山下政満の証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、三菱銀行戸畑支店の山下政満および山下アヤ子以外の預金口座は、原告会社設立後開設されたものであること、これらの預金は数万円ないしは数十万円の小口に分けて引出され、架空人をふくめた約一〇名の預金者名義に変更されていること、以上の事実を認めることができる。

(四)  前掲甲第七号証によれば、原告会社の仕入帳は、原告会社の設立年月日が昭和三五年三月二三日である(記録上明らかである。)にもかかわらず、前事業年度よりの繰込しおよび昭和三五年二月一日からの取引の状況が記帳されていることが認められ、右事実によれば、山下政満の個人企業をそのまま法人企業に転化するいわゆる「法人成り」の現象によるものと窺われ、帳簿も山下の個人企業時代の取引帳簿を締め切らないまま原告会社に流用したものと推認することができる。

(五)  前掲乙第五号証、成立に争いのない乙第六号証の一ないし二三および前掲乙第一〇号証の一ないし二〇ならびに前掲乙第一一号証の一ないし一四を総合すると、山下政満および山下アヤ子関係の預金口座における出入が、頻繁で入金も巨額に上り、殊に六月から九月にかけての夏季には他の月に比べて多額の預入れがなされていることが認められる。

(六)  成立に争いのない乙第一二号証の一・二によれば、昭和三六事業年度における所得金額は原告が金一一七万四四七七円、山下が六四万円の僅かであり、また、証人山下政満の証言によれば、原告会社代表取締役就任後、山下夫妻らは一度もその所得申告をしていないことが認められる。

以上の事実を総合勘案すれば、本件簿外の別口預金は山下政満、同アヤ子らの営業所得によるものではなく、原告会社の簿外収益金によるものと認めざるを得ない。

3. ところで、青色申告制度は、誠実かつ信頼性のある記帳をすることを約束した納税義務者が、これに基づき所得額を正しく算出して申告納税することを期待し、青色申告書の提出を認め、かかる納税義務者に種々の特典を付与するものである。右青色申告制度の趣旨・目的よりすれば青色申告法人の備付け帳簿書類の記載は、それのみによって企業の成績の真実を把握できる程度に内容が正確であり、形式において整然かつ明瞭でなければならない。したがって、青色申告書提出承認の取消しは、この期待を裏切った納税義務者に対しては、いったん与えた特典を剥奪すべきものとすることによって青色申告制度の適正な運用を図ろうとすることにある。

してみると、青色申告法人に要求される備付け帳簿書類に関する要件につき、前記1.2.に認定したとおり、原告会社の帳簿書類がこれを充足するとはとうてい認めがたいというべきであり、右認定事実は、まさに法人税法第一二七条第一項第三号にいう「その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部または一部を隠ぺいしまたは仮装して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」に該当する(昭和四〇年法律第三四号改正前の法人税法第二五条第八項第三号と同趣旨)ものというべく、被告署長はその事実があったと認められる昭和三六事業年度に遡って青色申告書提出の承認を取り消すことができるものというべきである。

したがって、被告署長の本件取消処分は適法である。

三、本件裁決処分についての判断

成立に争いのない甲第三号証の一・二に明らかなとおり、本件裁決処分の理由は、本件取消処分がその理由として、原告会社には法人税法第一二七条第一項第三号に該当する事実がある旨抽象的に附記したにすぎないのを、具体的に原告会社には簿外預金がある旨附記したものであって、審査の内容は実質的に同一であり異なる理由により本件裁決処分をなしたとはいえず、その間になんらのそご矛盾もない。

したがって、この点についての原告の主張は採用できず、本件取消処分に対する審査請求を棄却した被告局長の本件裁決処分は適法である。

四、結論

以上のとおり、原告の本訴請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高石博良 裁判官 足立昭二 裁判官 佐藤学)

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